
JAL Peer Support Program
我々パイロットは一般の人々と同じレベルの心の問題に苦しんでいるが、パイロットが外部からの支援を受ける割合は一般の人々に比べて恒常的に低いと言われています。これはライセンスを前提として乗務をしている我々の特殊性にあり、さらには日頃より精神的に落ち着いた状態を保つことや、問題解決の技術等を普段から訓練されていると自他ともに認識しているからだと言われています。
だからこそ、パイロットは一度自らでは対処できないような問題が発生しても相談する相手もいないまま、精神的な面で大きく影響を受け、さらには我々の専門的スキルにまで悪影響を与えます。
JPSPの理念
・「心のつながり」と「居場所の提供」
・ひとりで悩んだままにさせない
・Fit for DutyとReturn to Work
このプログラムの理念は、問題を抱えた個人が、ひとりで悩まず、信頼できる同僚のピアに自身の問題をいつでも相談できる、「心のつながり」と「居場所の提供」です。
また、このプログラムは精神的な問題を抱えているパイロットを特定し排除するものではありません。公正な文化の原則(ジャストカルチャー)が適用された中、同じパイロットの仲間であるピアに話をすることで問題解決に向けた方法や気づきを与え、健康な状態(Fit for Duty)で乗務に戻るまでをプログラム全体で支援する(Return to Work)ことを目的としています。
JPSPの原則
このプログラムを運営する上での原則は以下の3つである。
「独立性」:会社はこのプログラムを用意し、必要な支援(経費・マンニング・スケジュール調整・施設提供等)を行うが、このプログラムは常に中立でなければならず、会社を含めて外部からの介入は受けない。
「秘匿性」:相談者は秘匿環境のもとで保護される。本人の同意なしにこのプログラムの外に個人名と個人が特定されるような相談内容が出ることはない。
「透明性」:プログラムの運営は常に公明であり、その活動は誰から見ても明確でなければならない。
JPSPの秘匿環境
1. 守秘義務
相談内容は相談者及びピアの二人だけで共有され、個人情報や個別の相談内容等は外部と共有されることはありません。ただし、ピアが相談者の了承を得た場合に限り、コーディネーター、MHP、プログラムリーダーと情報を共有することが出来ます。
2. 守秘義務の例外
守秘義務を破ることが許される場合は以下の3つです。この場合はセーフゾーン内で共有することができます。
①自己への脅威:自殺未遂のような兆候がある場合
②他社の安全に対する脅威:他社、または飛行機の運航の安全を脅かす兆候がある場合
③法的理由:違法行為、犯罪行為の発生、または発生する可能性が高いと判断した場合
3. 守秘義務契約書への署名
ピアは相談に先立ち守秘義務に関する内容を相談者に口頭で説明し、守秘義務契約書(2者間)に署名します。
4. サポート委員会への共有
サポート委員会への共有は、匿名化されたデータのみで行います。
JPSPの構成
このプログラムは以下の要素で構成されます。
1. セーフゾーン
ピア:相談者と同じ仕事を持ち、彼らの問題や課題について寄り添えるよう、基本的な傾聴やカウンセリングのスキルと知識を教育された同僚(OB、OGを含む)。仲間を尊重し、仲間から信頼される人物。
コーディネーター:ピアとして一定の経験を積み、ピアからの相談やアシストを行う。また自らもピアとして相談者から相談を受ける。JPSPの運営に対してプログラムリーダーを補佐する。
MHP (Mental Health Professional):臨床心理士またはそれに準ずる資格を有するもの。このプログラムにおいて、セーフゾーン内での唯一の専門家であり、相談者・ピア・コーディネーターにとって重要な役割。
プログラムリーダー:このプログラムの運営を行う最終責任者。
2. サポート委員会
このプログラムが適切に運営されているかをサポートする。
MHPが行うピアの選考にあたり職場の意見を取り入れた適切な助言を行う。
このプログラムから上がってきた意見を各組織にフィードバックし対策につなげる。
3. 会社組織
運航安全推進部、乗員サポート部、運航乗員健康管理部
4. 外部復帰プログラムリソース
復帰プログラムとは、相談者が外部リソース/専門機関を活用しつつ、ピアと連絡を取りながら乗務に復帰するまでをサポートするプロセス。
アルコール・薬物等の物質依存プログラム
CIRP (Critical Incident Response Program)
ハラスメント相談窓口
金銭・法律相談窓口
その他


情報管理
1. 情報の管理
ピア、コーディネーター、MHPが受けた相談に関して、セーフゾーン内でその情報を管理・保存する。
2. 秘匿性
セーフゾーン内での情報保存は秘匿性を維持し、名前と相談内容が一致しないように管理する。
3. 情報の分析
プログラムリーダーは、集められた情報の分析を進め、本プログラムの評価・改善点を把握する。また、職場内のウェルビーイングに関する傾向の把握に努める。